俺を救ってくれたICレコーダー

俺を救ってくれたICレコーダー

 

中学生の時の話。
プールの授業が終わって教室に戻ってくるときに、ある女子のパンツが無くなっているという騒ぎがあった。
で、犯人探しが始まったんだけど、なんか日ごろから俺のことを「キモい」とか「不潔」とか影でコソコソ(といいつつ、結構あからさまに)なじってくるグループ(男子)のリーダーが俺を指差して
「○○くんがプールを途中で抜け出して教室に戻ってたから怪しいと思う」
と発言した。

 

確かにプールの授業中は各自練習する時間があって、結構先生の目が緩かったので抜け出すことは不可能じゃないが、俺は抜け出したりはしていなかった。
しかし、俺には友達がいなかったので、誰も俺がプールの授業を抜け出していないことを証言してくれる人がいなかった。

 

結果、クラス中の罵声の嵐。
俺の持ち物を全部机の上にひっくり返されて、クラス中にさらされた。
別に問題のパンツはおろか、変な持ち物なんて一切なかったから特に問題なかった。
そしたらリーダーが「どこかに隠したんじゃね?」とかいいだして結局俺の疑いは晴れなかった。

 

後で担任に職員室に呼ばれてキツく尋問されたが、俺は何にもしてないし、ただひたすら「やっていません!」というしかなかった。

 

信じられないことにその場で担任は俺の母親を電話で呼びつけ、事情を説明した(事情といっても、俺が怪しいのではないかという勝手な推論の押し付け・・・)。
母は俺よりも担任の言うことを信じ、
「謝りなさい!隠してるパンツを早く出しなさい!」
と俺を責める。
さらにその場に被害者の女子まで呼び出し、そいつの前で無理やり頭を押し付けられた。

 

結局俺が最後まで認めなかったので、母親がキツクしかっておくことと後で女子の家に謝罪&パンツの弁償をすることでその場は開放された。

 

かなり納得いかなかったが、父親が俺の無実を信じてくれて母親を一喝してくれたので、女子の家には行かずに済んだ。

 

 

次の日、教室に入るなり「変態」とか「パンツ返せ」とか罵声を浴びせられた。
「俺は犯人じゃない!」といちいち反論していたら、リーダーが背中を思いっきり蹴ってきた。
ムカついたので蹴り返したらリーダーと取り巻きみんなに反撃される始末。
そこへ担任が入ってきて騒ぎの原因を問いただすと、リーダーが
「○○にパンツ返してあげなよってやさしく注意したらいきなりけってきた」
と主張し、みんなも賛同。
また俺は呼び出しを喰らい、母親同席で厳重指導・・・

 

そのとき俺は何故かわかんないけどリーダーが犯人だという絶対の確信が沸いた。
なんとか疑いを晴らすための証拠が必要だと思い、父親がICレコーダーを持っていたことを思い出し、それをしばらく借りることにした。

 

さっそく次の日朝早く教室に行き、ICレコーダーを仕掛けることにした。
机の中に入れてもすぐ見つかってしまうので思案していたところ、ちょうど奴の机は廊下側の壁に接しており、壁の上下の窓が開けてられたので、廊下側に仕込むことにした。
廊下側はロッカーになっており、普段使わないような学習教材なんかをしまっていたので、そのロッカーの俺の区画の奥にICレコーダーを設置した。
試しに奴の机でアーアーと普通くらいのボリュームで喋ってみたら、バッチリ明瞭な声で記録できていた。

 

それから毎日、朝仕込んで夕方回収し、証拠となることが録音されていないか確認したが、1週間たってもまったく証拠となるような発言はなかった。

 

その間リーダーとそのトリマキはしつこく俺に暴力を振るったが、やり返すとまた担任に事実を捏造してちくられるので黙って耐えた。
他のクラスメートも俺と目線をあわさなくなった。
焦りも出てきて、意を決してリーダーを放課後に呼び出してレコーダーの近くで「お前が犯人だろ」と問い詰めてみたが、それでもボロは出さなかった。
「俺が犯人だという証拠でもあんのかよ?」
っていう言い方に、
「俺が犯人なんだけどお前に罪をかぶせてやったぜ?ざまぁ!証明してみろ!」
的なニュアンスを感じ取ったがやや絶望を感じた。

 

 

ただ、このことが事態を好転させた。次の日、奴が罠にかかったのだ。
放課後、奴と取り巻きの2人の会話が録音されていた。
リーダー「昨日○○が『おまえが犯人だろぉーーー』とかキモい顔で言ってきたよ」
トリマキA「うわぁキモっ」
トリマキB「うぜぇー」
リーダー「ムカつくからボコってやったよ」

 

『ボコられてねぇよ、誇張すんなよ』と思いつつ、この時点でなんか喋ってくれると思ってワクワクした。そしたらリーダーが
「ま、俺が犯人なんだけどね!」
と言った。
思わず俺はガッツポーズした。

 

おまけに
トリマキA「そういえばさ、なんで盗んだパンツ、あいつのカバンとか机に仕込んでおかなかったんだ?そうすれば決定的証拠をあいつになすりつけられたのに」
リーダー「いや、なんか△△(被害者の女子)のパンツを手に取った瞬間、なんかこうムラムラしちゃって、今俺の家にある」
トリマキB「うわーさいてーー、おまえそれでヌイてないよなー?」
リーダー「何度か、オカズにしちまった(笑)」

 

 

この音声を使ってさっそく、俺の無実と奴らの悪事をみんなに報告してやることにした。
それと念のため、リーダーとトリマキ2人の家庭にもこの会話内容と、俺が無実の罪を着せられていること、毎日暴力を受けていることをを手紙に書き、ダビングしたテープと共に3人の家に郵送した。

 

翌日、帰りの会のときに日直からの「何か連絡事項がある人はいますか?」のときに発表した。
その日の日直はちょうどリーダーで、俺が手を挙げてもシカトされたが、かまわずICレコーダーを手に教壇に上がった。

 

担任が「何する気だ?座ってろ!」と俺を引き摺り下ろそうとしたが「こないだ△△の下着が盗まれた事件があってから俺がさんざん疑われているけど、真犯人がわかったので発表します!真犯人は、××(リーダー)です!」
と一気に叫んだ。
クラスのみんなはザワザワし始める。
リーダーは「はぁ?」という薄ら笑いをしている。
担任は「何いってんだ?××が犯人なわけないだろが!証拠もなく罪を押し付けるな!」
と俺に怒鳴った(リーダーは俺と違ってイケメンだし、みんなの前ではハキハキしてて成績もいいほうだったので担任の信頼が厚かった)。

 

すかさず「証拠はコレです!」とICレコーダーを突き出す。
「これは、事件のあった次の次の日から廊下のロッカーに仕込んでおいたものです。これに××が自分が犯人であると告白している発言が録音されています。」
といい、おもむろに再生スイッチをONにした。

 

俺がリーダーを問い詰めるところから始まり、リーダーとトリマキ2人の会話、リーダーの犯人宣言とオカズにしてます宣言が垂れ流された。
シーンとする教室。凍り付いていたリーダーがイキナリ取り乱して俺のICレコーダーを奪おうと襲い掛かる。
すかさず前蹴りを食らわして寄せ付けないようにした。

 

すべてが終わった後、再生を止め、担任に向かって
「これで俺の無実は証明できますよね?」
と聞いた。
担任は呆然として「ああ、」とつぶやくだけ。
立て続けに「先生はさっき、証拠も無く罪を押し付けるなといいましたよね。なのに証拠も無く俺を犯人としたのはどういうことですか?」「そして××、俺や被害者の△△さんに何か言うことはないの?」とまくし立てた。

 

教室はザワザワ、リーダーとトリマキはずっと下を向いてうつむいている。
担任はただ慌てて「今日はみんな帰りなさい、早く、帰りなさい」とみんなを教室から退出させた。

 

 

その後、担任は学年主任と共にウチに来て土下座で平謝り。
クラスメートの一部は俺に謝ってきてくれて、イジメは無くなった。
リーダーとトリマキ2人はクラスの信頼を失い、一気に地に落ちてみんなの輪に入ることは一切無くなった。
それと俺の体についたアザも彼らからの暴力の証というのが認められて、彼ら3人とその親から土下座の謝罪を受けた。

 

この一連のゴタゴタの後、両親が「(イジメに)気づいてやれなくてごめんな」と謝ってくれ、そのままICレコーダーを俺にくれた。
このICレコーダーがなければ、俺はずっと犯人扱いされ、いじめられていたかもしれない。
今でも俺の武勇伝(?)の証としてこのICレコーダーを大事に使ってます。

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