サングラスの若者

 

電車の座席はほぼ埋まり、車内には立っている人がちらほらいる程度。
私の向かい側座席の前には、男性1人、女性2人のハイキング帰りらしい高齢者が立っていた。
私に背中を向けているから、時たま見える横顔で判断するしかないが、60代半ばぐらいか。

 

彼らの目の前の座席には若者2人と、50代ぐらいの女性1人が座っている。
若者は2人とも茶髪、1人はサングラスをしていた。

 

この人たちに気づいたのは、この高齢者組の男性が
「最近の若い者は年寄りを立たせても平気なんだから
 ちょっと前は罪悪感からか寝たふりをしたもんだが、最近じゃ寝たフリもしないからふてぶてしい」
などと、 かなり大きな声で話しているのが耳に入ってきたからだ。

 

どうも自分の前にいる若者に席を譲らせて、女性2人を座らせたかったらしい。

 

ここまで嫌味っぽく言われると、まったく関係ない第三者の私だってちょっと気分が悪い。
すっかり眠気が覚めてしまった。

 

反対側にいる私が席を譲れば、もう1人ぐらい誰か立ってくれるだろうと思って腰を浮かせかかった瞬間、サングラスの若者が口を開いた。

 

「あんたたちさぁ、山は歩けるのに電車では立てないの?
 それっておかしくない? 遊んできたんだろ?
 こっちはこれから仕事に行くところなんだよ。
 だいたいさぁ、俺みたいな奴が土曜日も働いて、あんたたちの年金を作ってやってるんだって分かってる?
 俺があんたみたいなジジイになったら年金なんてもらえなくて、優雅に山登りなんてやっていられないんだよ。
 とにかく座りたかったらシルバーシートに行けよ」

 

細部の表現は覚えていないながら、こんな感じ。
チャラチャラしているように見える若者の意外な発言に正直言ってビックリ仰天した。

 

3人の高齢者は凍りついたように黙りこくり、 次の駅で降りていった。
他の車両に乗り換えたのかもしれない。

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