【お父さんにほうこくがあります】
片山悠貴徳(ゆきのり)くんは、
母と妹との3人暮らし。
8月に、夏休みの自由研究で、
「お父さんのことを書きたい!」
と恵津子に言った。
父の俊作さんは、
2007年3月、心臓発作でなくなった。
27歳だった。
生前使っていたダイニングの椅子に座り、
遺影がある仏壇の前で、
悠貴徳(ゆきのり)くんは、
3時間かけて作文を書いた。
「おとうさんにほうこくがあります」
と書き始めた。
8月下旬、夢を見た。
仏壇の下からお父さんが出てきた。
「戻って来てよかったね」
お父さんは
「天国におったけど、また来られてよかったよ」
と頭をなでてくれた。
大好きなプラレールで遊んだ。
・・・夢からさめてダイニングに行くと、
お父さんのいすはやっぱり空いていた。
10月、母が俊作さんのことを思い出し、
声を出して泣いていた。
悠貴徳君は歩み寄って言った。
「だいじょうぶ。
ママもつらいけど、
ぼくもつらいけど、
がんばろう。
ぼくが守るけん」
泣きながら、恵津子さんの背中をさすった。
11月、第4回「いつもありがとう」作文コンクールで
全国3万3421点の応募作から
悠貴徳(ゆきのり)くんの書いた作文が、
最優秀賞に選ばれた。
東京で表彰式があり、
悠貴徳君が作文を朗読した。
参加者は目を潤ませた。
〜〜〜〜
おとうさんがびょうきでなくなってから三年、
ぼくは小学一年生になりました。
おとうさんにほうこくがあります。
きっとみてくれているとおもうけど、
ぼくはおとうさんのおべんとうばこをかりました。
ぼくは、きのうのことをおもいだすたびに
むねがドキドキします。
ぼくのおべんとうばことはしがあたって、
すてきなおとがきこえました。
きのうのおべんとうは、
とくべつでした。
まだ十じだというのに、
おべんとうのことばかりかんがえてしまいました。
なぜきのうのおべんとうがとくべつかというと、
それはおとうさんのおべんとうばこを
はじめてつかったからです。
おとうさんがいなくなって、
ぼくはとてもさみしくてかなしかったです。
おとうさんのおしごとは、
てんぷらやさんでした。
おとうさんのあげたてんぷらは
せかい一おいしかったです。
ぼくがたべにいくと、
いつもこっそり、
ぼくだけにぼくの大すきな
エビのてんぷらをたくさんあげてくれました。
そんなとき、ぼくはなんだか
ぼくだけがとくべつなきがして
とてもうれしかったです。
あれからたくさんたべて
空手もがんばっているので
いままでつかっていたおべんとうばこでは
たりなくなってきました。
「大きいおべんとうにしてほしい」
とぼくがいうと、
おかあさんがとだなのおくから
おとうさんがいつも
しごとのときにもっていっていた
おべんとうばこを出してきてくれました。
「ちょっとゆうくんには、大きすぎるけどたべれるかな」
といいました。
でも、ぼくはおとうさんのおべんとうばこを
つかわせてもらうことになったのです。
そして
あさから
まちにまった
おべんとうのじかん。
ぼくはぜんぶたべることができました。
たべたらなんだか
おとうさんみたいに、
つよくてやさしい人に
なれたきがして、
おとうさんに
あいたくなりました。
いまおもいだしても
ドキドキするくらい
うれしくておいしい
とくべつなおべんとうでした。
もし、かみさまに
おねがいができるなら、
もういちど
おとうさんと、おかあさんと、
ぼくといもうとと
みんなでくらしたいです。
でもおとうさんは、
いつも空の上から
ぼくたちをみまもってくれています。
おとうさんがいなくて、
さみしいけれど、
ぼくがかぞくの中で
一人の男の子だから、
おとうさんのかわりに、
おかあさんといもうとを
まもっていきます。
おとうさんのおべんとうばこで
しっかりごはんをたべて、
もっともっとつよくて、
やさしい男の子になります。
おとうさん、
おべんとうばこを
かしてくれて
ありがとうございます。
(第4回「いつもありがとう」作文コンクール最優秀賞)
作文は今、俊作さんの仏壇に供えられている。
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